モーツァルトの最高傑作―ピアノと管楽のための五重奏曲 K.452
さて、今回のテーマは「モーツァルトの最高傑作」としました(些か釣りタイトルの感はありますが……)。
もちろん、芸術の価値を数値として評価することはできないので、モーツァルトの作品の中でどれが一番優れているかを客観的・絶対的に決定することなど不可能です。
多くの人に対し、どの曲が一番好きかというアンケートを行って統計的に決めるといった方法もありますが、これはあくまでも「人気」の観点からの評価であり、音楽としての「価値」を評定するものではありません。
さらに、時代や地域が異なれば人の好みも変わりますし、一人の人間の嗜好も気分により大きく変動するものなので、やはり最高傑作などは決めようがないというのが正しいのでしょう。
それにもかかわらず「最高傑作」のようなテーマを取り上げた理由は、モーツァルトが、自身の作品について言及している手紙があり、それをご紹介したかったからです。
1784年5月26日、モーツァルトはウィーンからザルツブルクにいる父レオポルトに宛てた手紙の中で次のように書いています。
「……それから非常な喝采を博した五重奏曲を書きましたが、私はこの曲をこれまでに作った曲の中で最高のものだと考えています。……」
モーツァルト自身が最高傑作と評した曲、それは「ピアノと管楽のための五重奏曲 変ホ長調 K.452」で、ピアノのほかオーボエ・クラリネット・ホルンおよびファゴットにより奏でられる作品です。
この1784年は、モーツァルトのウィーンにおける活動が軌道に乗り始めた時期であり、作曲家として充実した日々を送っていたことは間違いありません。
とはいえ、その後もモーツァルトの音楽はさらなる高みへと上昇していったのですから、あくまで「この時点での最高傑作」という制約がつくわけですが、手紙にもあるとおり、当時の人々には大きな共感をもって受け入れられたようです。
ところで、この曲をご存知でしょうか?
実際のところ、現在ではモーツァルトの作品中、あまり人気の高い曲とはいえず、演奏される機会も多くないので、知らない方が多いのではないかと思います。
しかし、モーツァルトが自らの最高傑作と自賛しているほどですから、各楽器の特質が存分に活かされた、極めて高い完成度と豊かな芸術性を具えていることは確か。
聴かずにおくのは実に勿体ないと言うべきでしょう。
なお、後にベートーヴェンは、同じピアノ五重奏曲、しかも調性まで同一の変ホ長調をとるOp.16を書きましたが、この楽器編成が決して標準的なものでないことを鑑みても、音楽学者アインシュタインの言う通り、モーツァルトの作品に対抗意識をもっていたことは間違いありません。
さらにアインシュタインは、ベートーヴェンはこの作曲経験から、モーツァルトの作品を越えることの困難さを認識し、張り合うことを避けるようになった――とも述べています。
☆ピアノと管楽のための五重奏曲 変ホ長調 K.452
作曲年:1784年(モーツァルト28歳のとき)
構成:
・第1楽章 ラルゴ―アレグロ・モデラート(Largo - Allegro Moderato)
・第2楽章 ラルゲット(Larghetto)
・第3楽章 アレグレット(Allegretto)
https://www.youtube.com/watch?v=F40X8bRxKI4