モーツァルト・セラピー(療法)
モーツァルト・セラピー(療法)という言葉をお聞きになったことはありませんか?
これは、モーツァルトの音楽を聴くことにより、ストレスの解消や健康の増進、さらには病気の改善・治療までも実現しようとする療法(セラピー)のことで、ちょうど色によるカラー・セラピーや香りの力を利用するアロマ・セラピーなどと同列に位置づけられるものといえます。
音楽をはじめとするアート(芸術)が人間の精神に及ぼす影響については、古くから絶えず論じられてきました。
古代ギリシャの数学者ピタゴラスは、音楽に精神の乱れを正す力があると言明していますが、これをさらに進めて、人の身体的な問題の緩和・解決にも応用しようとする試みにおいて、モーツァルトに白羽の矢が立てられたというわけです。
さて、モーツァルトの音楽には不思議な作用があるといわれます。
お酒を発酵させる過程でモーツァルトの曲を流しておく美味しくできる、モーツァルトを聴かせると野菜や果物がよく実る、牛の乳の出がよくなる、など。
このような働きは「モーツァルト効果」と呼ばれていましたが、このモーツァルト効果研究の第一人者ドン・キャンベルが著した「アマデウスの魔法の音」をきっかけとして、モーツァルトセラピーが脚光を浴びるようになり、以後、さまざまな本やCDのシリーズが発売されているようです。
このモーツァルト効果の存否、存在する場合の程度について、私は何ら言明する資格はなく、そのつもりもありませんが、個人的な観察、経験を少し書いておきます。
まず、これまで、私は何匹かの猫を飼ってきました。
当然、彼らは私と一緒に音楽を聴く機会が多かったのですけれど、ことモーツァルトに関しては、たとえ大きな音量であっても、猫が嫌な顔をすることはありませんでした。
一方、これがジャズなどの場合、個体差はあるものの、ほぼ一様に違和感をもっている表情を示し、虫の居所が悪いとプイと部屋を出て行ってしまうようなこともあったものです。
猫がモーツァルトを好きなのかは分かりません。
しかし、少なくとも、耳障りに感じていないことは確かだと思います。
もう一つ、私は釣り――というかむしろ釣り竿、それも、竹を素材として手作りされた竿に趣味があり、少なからぬ本数を所有しています。
それを眺めているだけでも十分愉しいのですが、本来の用途は釣りの道具なので、もちろん実際に使用もするわけで、その際、同じ竿でも、時折はッとする釣り味の変化・向上を覚えることがあるのです。
自然素材とはいえ、漆などでしっかりと加工されているので、気温や湿度の影響は微々たるものですし、その時の体調や気分に左右されるにしても、これだけでは説明されない、もっと顕著な差を。
で、他に何か理由となる要素はないか――と考えると、「そういえば、ここしばらくの間、モーツァルトを集中的に聴いたな、」ということに思い至ることが多いのです。
ともあれ、「モーツァルト効果」のあるなしにかかわらず、私はこれからもその作品を聴き続けるでしょう。
それを聴くこと自体が愉しみであり、喜びなので。
付記:上に挙げた竹の釣り竿については、別サイト「紀州へら竿―へらぶな釣りと竹竿の愉しみ」でご紹介していますので、よろしければご覧下さい。
管楽協奏曲
今回は協奏曲の2回目として、管楽のための協奏曲を取り上げます。
モーツァルトの管楽協奏曲は、ホルン協奏曲(4)、フルート協奏曲(2)、オーボエ協奏曲(1)、ファゴット協奏曲(1)およびクラリネット協奏曲(1)が、完全な形で現存しています(※カッコ内の数字は曲数)。
この中でもっとも有名かつ重要なのは、最晩年に作曲された「クラリネット協奏曲 イ長調 K.622」と言って間違いなく、このジャンルはもとより、モーツァルトの全作品に範囲を広げても、最高の芸術性と完成度をみせています。
ですから、それをご紹介するのが王道なのですが、あまりにも有名、かつ重要な曲なので、ご存知の方も多いでしょうし、また後日、このサイトで改めて取り上げるつもりですので、今回はあえて他の曲にスポットライトを当てることにしました。
それは、唯一のオーボエ協奏曲 ハ長調 K.314(285d)です。
今でこそモーツァルトの作品中でよく知られ、また、歴代の作曲家たちの手になる数あるオーボエ曲の中でも非常に高い人気を博していますが、この協奏曲が発見されたのは比較的最近、1920年のことでした。
つまり、モーツァルトの時代に演奏されてから長い間、人々の耳に触れることのなかった作品なのです。
作られたのは1777年で、以下のように典型的な協奏曲の構成をとっています。
第1楽章 アレグロ・アペルト(Allegro aperto)
第2楽章 アダージョ・ノン・トロッポ(Adagio non troppo)
第3楽章 ロンド:アレグレット(Rondo: Allegretto)
また、作曲の目的は、モーツァルト自身が「僕がフェルレンディスのために書いたオーボエ協奏曲が大喝采を博しています、」とマンハイムから父に宛てた手紙に書いていることから見て取れます。
ところで、このオーボエ協奏曲、調性が違うという点を除けば、実はフルート協奏曲第2番と全く同じもの。
これら2曲の関係は、本来オーボエのために作曲したものを、オランダの商人でフルート愛好家、フェルディナン・ド・ジャンからのフルート協奏曲の注文に応じるために作り変えたもの――という説が一般的です。
この真偽は定かでありませんが、曲の印象としては、やはりオーボエの特性にフィットしているように思います。
ともあれ、そのようなわけで、K.314というケッヘル番号をもつ曲は、フルート協奏曲とオーボエ協奏曲の二つがあるのです。
では、「オーボエ協奏曲 ハ長調 K.314(285d)」を実際にお聴きいただきましょう。
https://www.youtube.com/watch?v=eDrVtXPpuRI
ところで、オーボエ奏者には髪の薄い人が多いといわれます。
確かに、上の動画の独奏者フランソワ・ルルー、有名なハインツ・ホリガーをはじめとして、名だたる演奏家の頭を見ると、そのような気もしないではありません。
で、その理由ですが、オーボエという楽器の演奏にはわずかな息しか必要ないため、「思い切り吹きたい!」という欲求が溜まってそれが頭髪に影響してしまうのだとか……
嘘か、真か?