モーツァルト・カフェ|名曲・おすすめ作品・エピソードなど

不世出の天才作曲家W.A.モーツァルト。その名曲・代表作・おすすめ作品をはじめ、生涯や音楽上のエピソードなどをご紹介します。

アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525

アイネ・クライネ・ナハトムジーク(セレナード第13番 ト長調 K.525)は、モーツァルトの数多の作品の中でも最も知られた曲の一つでしょう。

 

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特に、第一および二楽章の主題旋律はあまりにも有名で、ほぼすべての人の耳に深く記憶されているのではないでしょうか。

 

モーツァルトには珍しく、この標題は彼自身の付したもので、自作品目録の64番目に、「(1987年)8月10日、アイネ・クライネ・ナハトムジーク、アレグロ、メヌエットとトリオ、ロマンス、メヌエットとトリオ、およびフィナーレから成る。ヴァイオリン2、ヴィオラおよびバッシ(低音弦楽器の複数形)」と記されています。

 

アイネ・クライネ・ナハトムジーク(eine Kleine Nachtmusik)とは、英語にすれば"a little night-music"、すなわち小さな夜曲で、前記事「モーツァルトのセレナード」においてご紹介したことからお分かりの通り、これはセレナードとほぼ同義です。

 


モーツァルトの代表作たるアイネ・クライネ・ナハトムジークですが、この曲は有名な反面、音楽史的にはいくつかの謎を具えています。

 

まず、作曲の動機・目的が不明なこと。

 

さらに、現在は全四楽章の作品として演奏されますが、上に挙げた自作品目録の記載が示す通り、元々は現在の第一楽章と第二楽章との間にメヌエットが置かれていました。

 

そのメヌエットの楽譜は失われてしまったため、私たちはそれを聴くことができないわけで、この点残念と言わざるを得ません。

 

しかし、セレナードはその性格上、必ずしも全曲を通しで聴かなければならない性格のものではないので、メヌエットが一つ欠けても価値は十分に保たれているといえます。

 

もう一点、作曲動機が不明なことと指定編成が曖昧なため、この曲がオーケストラを想定したものなのか、もしくは室内楽曲として作られたのかについても定かでありません。

 

それゆえ、現在ではオーケストラ、小アンサンブルいずれでも奏され、それぞれの味わいを愉しむことができるという、謂わば怪我の功名ともなっています。

 

 

 


ところで、第一に挙げたもっとも大きな謎、この曲の作曲意図について、私は個人的に「『アイネ・クライネ…』は、『音楽の冗談 K.522』と表裏一体、対となる作品ではないか――」と長年思って来ました。

 

つまり、「音楽の冗談」という、凡庸な作曲家や技量の浅い演奏家などを風刺する反面教師的な曲を書いた以上、「音楽とはこのように作るものだ、」という善例も示す必要があり、重ねて音楽に対する贖罪として作曲したのが「アイネ・クライネ…」ではなかろうかと考えたのです。

 

モーツァルトに関して、私は単なるディレッタントであり、専門の研究家でも史家でもないので、この考えを裏付けるような調査を実施したわけではありませんが、モーツァルト研究で名高い音楽学者のアルフレート・アインシュタインが同じ推測を述べていることを後に知り、「我が意を得たり」という気持ちになったものです。

 

実際、モーツァルトの作品全体を俯瞰すると、所々に対句的な作品が見られることは否定できないように感じます。

 

この辺のことも、今後折に触れてご紹介するつもりです。

 


ここでは弦楽五重奏による演奏をお聴き頂きましょう(演奏の始まるまでに少々間があります)。

 

☆セレナード第13番 ト長調 K.525 アイネ・クライネ・ナハトムジーク
第1楽章 アレグロ(Allegro)
第2楽章 ロマンツェ:アンダンテ(Romance Andante)
第3楽章 メヌエット:アレグレット(Menuetto: Allegretto)
第4楽章 ロンド:アレグロ(Rondo: Allegro)

https://www.youtube.com/watch?v=CNRQ-DW7064