モーツァルト・カフェ|名曲・おすすめ作品・エピソードなど

不世出の天才作曲家W.A.モーツァルト。その名曲・代表作・おすすめ作品をはじめ、生涯や音楽上のエピソードなどをご紹介します。

ピアノ三重奏曲 第3番 ト長調 K.496

ピアノ三重奏曲は、その名称が示す通りピアノを含む3つの楽器で奏される作品で、基本的にはピアノのほかにはヴァイオリンとチェロが用いられます。

 

室内楽曲として決して看過できないジャンルでありながら、現在、独奏や四重奏などに比べコンサートなどで取り上げられる機会の多くないのは、常設の四重奏団が珍しくない一方、三重奏団というのは少なくともクラシック音楽の世界では決して多くなく、従ってピアノ三重奏曲を現出するには三人のソリストが集まらねばならないということも理由の一つかもしれません。

 

しかし逆に、私的な音楽サークルなどでは、三人が自分の力量をそれぞれ発揮できるジャンルとして持て囃され、実際ピアノ三重奏曲はこの目的で書かれたものが少なくありません。

 


モーツァルトはこのジャンルに六つの足跡を印していますが、初めて足を踏み入れたのは1776年のことで、作曲動機を明確に示す資料は見出されてはいないものの、その性格から、やはり仲間内での音楽的集まりでの演奏を目的に書かれたと考えられています。

 

この年、20歳のモーツァルトはセレナードやディヴェルティメントといった機会音楽を数多く書いており、ピアノ三重奏曲処女作もこれを反映してか、明るく軽快な色調で全体が描かれた確かに魅力的なものではありますが、当時のこのジャンルの性格を踏襲し、主役はあくまでピアノであり、ヴァイオリンも時折自己を主張することはあるものの、チェロはピアノの低音部を補う役割に過ぎず、芸術的完成度という点ではまだまだモーツァルトの本領を見ることはできません。

 

実際、その後10年ほど、ピアノ三重奏曲が書かれなかったことを鑑みても、当時のモーツァルトにとってはさほど重視すべき領域ではなかったのでしょう。

 

 

 

 


しかしながら、自作品目録に1786年7月8日の完成日付とともに記された「Terzetto(三重奏) ト長調 K.496」では、モーツァルトが明確に三つの楽器を意識したことがそのタイトルから推されると同時に、作品自体もこれを体現しており、まだ控え目ではあるもののチェロがピアノあるいはヴァイオリンと語らう場面も聴くことができます。

 

特に、終楽章の第四変奏における響きは、チェロの面目躍如というべきでしょう。

 


なお、同作の完成からほぼ一月後に成ったのが、「ピアノ、クラリネットとヴィオラのための三重奏曲 変ホ長調 K.498 "ケーゲルシュタット"」で、援用楽器の相違はあるにせよ、ここではより一層協(競)奏性が顕著となっているのは注目すべきこと。

 

K.496、K.498のどちらも、作曲動機は友人ゴットフリート・ジャカンの邸で演奏するため――というのが通説となっていますが、作者自らのピアノでこれらの曲の奏でられる集いは一体どのようなものだったのか――想像するだけで羨望を禁じ得ないのは私だけではないはずです。

 


ピアノ三重奏曲 第3番 ト長調 K.496
第1楽章 アレグロ(Allegro)
第2楽章 アンダンテ(Andante)
第3楽章 アレグレット:主題と6つの変奏(Allegretto: Thema mit 6 variazionen)

https://www.youtube.com/watch?v=PwPz7rWLxv0