モーツァルト・カフェ|名曲・おすすめ作品・エピソードなど

不世出の天才作曲家W.A.モーツァルト。その名曲・代表作・おすすめ作品をはじめ、生涯や音楽上のエピソードなどをご紹介します。

交響曲 第31番 ニ長調 K.297(300a) "パリ"

今回は、既に次の二つの記事でも少し触れた「交響曲 第31番 ニ長調 K.297(300a) "パリ"」をご紹介しましょう。

 

mozart-cafe.hatenablog.com

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この作品については、作曲動機・時期ともにはっきりしており、母マリア・アンナとともに職を求めて訪れた花の都パリにおいて、当地の公開演奏会ル・コンセール・スピリチュエルを仕切っていたル・グロの注文に応じて1778年6月12日に完成されたことが資料により裏付けられています。

 

そしてそのすぐ後の18日、ル・コンセール・スピリチュエルで初演され、大喝采を博しました。

 


同作の特徴として先ず挙げるべきは、演奏時間こそ長大ではないものの、オーケストラの規模、さらにその能力は当時の最高水準のものが想定されており、クラリネットを初めて採り入れた完全な二管編成――すなわち、オーケストラの中で最大音量の一番小さい木管楽器をそれぞれ二本用いる――の交響曲となっている点。

 

これはもちろん、パリのオーケストラの力量を遺憾なく発揮することにより、自らの楽才をも誇らかに顕示しようとの意図に基づくものですが、その根底には、事前に訪問したマンハイムの楽団の優れた演奏に啓発されたことも従前から指摘されています。

 


そして、全奏者が一斉に同じ旋律を奏でて始めるという、当時のフランス楽団の流儀を踏襲したオープニングを具えると同時に、パリの聴衆の嗜好に合う要素をふんだんに盛り込まれているのも、この交響曲の大きな特徴。

 

しかしながら、表面的な派手さを徒に持て囃すフランス人の風潮について、モーツァルトは父親に当てた手紙の中でかなり冷笑的に言及しており、レオポルトも同じくこれを苦々しく思っていたことが、やはり書簡に述べられています。

 


もっとも、モーツァルトには、そんな褒められない趣味にある意味迎合せざるを得なかったことに対する自嘲の気持ちもあったのかもしれません。

 

実際、ほぼ二ヶ月後の再演に際しては、ル・グロの注文に応じて第2楽章を書き直すこととなり、しかし以後、作曲家自身が同曲を演奏した機会には、いずれも第一稿を採用している事実にも、その一端が窺えるように思います。

 


ともあれ、このような妥協はあったにせよ、このニ長調交響曲もまた、決して低俗に堕すことなく一つの見事な芸術作品として仕上げられていることは間違いありません。

 


交響曲 第31番 ニ長調 K.297(300a) "パリ"
第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ(Allegro vivace)
第2楽章 アンダンテ(Andante)
第3楽章 アレグロ(Allegro)

https://www.youtube.com/watch?v=CShEPvBf048