冬、凍てつくウィーンの夜―オペラ「ドン・ジョヴァンニ」の序曲とともに、「モーツァルト、赦してくれ!」との絶叫がある邸から響く―その出所である部屋に駆け付けた執事と従僕が、主人の好物であるスイーツを持参したことを告げ、ドアを開けるよう懇請する…
先にご紹介した「セレナード 第7番 ニ長調 K.250(248b) "ハフナー"」に並ぶ、このジャンルにおけるモーツァルトの大きな作品として、「第9番 ニ長調 K.320 "ポストホルン"」があります。ポストホルンとは、モーツァルトの時代、郵便馬車がその出発や到着を知…
現在のオーストリアの首都、ウィーンについては、あらためて多言を弄する必要はないでしょう。長い歴史と、それを通じて培われた文化が街全体に満ち溢れており、シェーンブルン宮殿・シュテファン大聖堂・美術史博物館そして国立歌劇場など、一般的観光客は…
…そんなディヴェルティメントの中で、モーツァルトの最後に手掛けた作品が、今回ご紹介する「変ホ長調 K.563」です。この曲は、「弦楽三重奏のためのディヴェルティメント」、あるいは「ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのためのディヴェルティメント」などと…
現在、モーツァルトの作品で"ハフナー"という標題を冠して呼ばれるものは2つあります。一つは「交響曲 第35番 ニ長調 K.385」、そしてもう一つが、今回ご紹介する「セレナード 第7番 ニ長調 K.250(248b)」です。これらは、作曲時期こそ、それぞれ1782年、177…
モーツァルトは、27ものピアノ協奏曲を書いた一方、ヴァイオリン協奏曲はわずか5曲しか残していません。そしてそれらは、207, 211, 216, 218, 219というケッヘル番号が示している通り、第1番のみが1773年に、残りは1775年に、一気呵成といった感じで書かれま…
過日、以下の記事でも書きましたが、クラシック音楽の作品ジャンルの一つとして、卒業や結婚といった比較的カジュアルな祝宴に彩を添えることを目的とし、主に室内において演奏されるディヴェルティメント(喜遊曲)があります。その性格上、同種のものである…
モーツァルトが如何に音楽的天才に恵まれていたとしても、彼一個で己の才を見出し、それを育み磨いてあのような高みへ到達したわけではなく、偉大なる先達や、数多の同時代の音楽家から、さまざまな形で教示や影響を受けました。その筆頭として、先ず父親レ…
モーツァルトの「おすすめの名曲」としてこれまでご紹介してきたのは、主にいわゆる有名どころなので、今回はやや知名度は低いもののぜひ聴いておきたい、「知られざる名曲」的な作品を取り上げたいと思います。それは、"ケーゲルシュタット"あるいは"ケーゲ…
先に「モーツァルトの弦楽四重奏曲」でご紹介した通り、ヴォルフガングは1770年、14歳の時に、最初のイタリア旅行の道中、ローディという土地で、このジャンルにおける第1作「ト長調 K.80(73f)」を作曲しました。さらに、1772年に行った第3回イタリア旅行の…
1781年、モーツァルトは、長年さまざまな面で対立していたザルツブルク大司教ヒエローニュムス・コロレードと完全に決別し、故郷を去ってウィーンへ居を移しました。それ以降はフリーの音楽家として、作曲の他、楽譜の出版やレッスンにより生計を立てていま…
ヴォルフガングにとって初めての旅行となったミュンヘン訪問からザルツブルクへ戻ったほぼ半年後の1762年9月18日、モーツァルト家は再び、今度は母親を含めた全員で旅路に上りました。その目的地は、音楽の都ウィーン。交通の発達した現在では、ザルツブルク…
前記事でご紹介した「クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581 "シュタードラー"」が世に出る一年前の1788年、モーツァルトはほぼ同時に、俗に「三大交響曲」とも呼ばれる三つの交響曲を書き上げました。「第39番 変ホ長調 K.543」「第40番 ト短調 K.550」そして…
芸術家には、その作品に創造時の心理や感情、さらにはその根底となる私生活の状況や出来事などが強く反映してしまうタイプと、あまり、あるいははほとんどそれの感じられないタイプがあります。芸術家も人間である以上、どちらかと言えば前者の方が普通と言…
今回は、モーツァルトの「ヴァイオリン・ソナタ」についてご紹介したいと思います。現代の慣習に従い「ヴァイオリン・ソナタ」といったものの、モーツァルトの時代には、これは「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」、あるいは「ヴァイオリン伴奏つきのピ…
ゴットフリート・ファン・スヴィーテン男爵―と言っても、あまり一般には知られていない名前かもしれません。しかし、ミロス・フォアマン監督の手になる映画「アマデウス」の中の次のシーンを記憶されている方は少なくないのではないでしょうか?お目通りを許…
モーツァルトの宗教音楽が質・量ともに充実していること、しかし惜しいことにそれらの演奏される機会は現在ではそれほど多くないことを前記事で述べました。そして、その唯一の例外として、「レクイエム ニ短調 K.626」を挙げることができ、この曲については…
モーツァルトは、25歳でウィーンへ移住するまで、ザルツブルクの宮廷音楽家として活動しました。先に「Mozartゆかりの都市(1)―ザルツブルク」でもご紹介したように、ザルツブルクは現在のヴァチカン市国と同じ教会国家であり、領主はカトリック教会の大司教…
この辺りで、モーツァルトの作品群の中でももっとも華やかなジャンル、オペラを取り上げたいと思います。モーツァルトがはじめてオペラを作曲したのは1767年、わずか11歳のときのことです。この作品は「アポロとヒアチントゥス(Apollo et Hyacinthus K.38)」…
息子ヴォルフガングの音楽の天才に気付いたレオポルトは、これを育み開花させることを神から与えられた自分の使命と考え、早くからその実践に取り掛かりました。音楽そのものはもちろん、音楽家として世を渡っていくのに必要な一般教養についても、幼いヴォ…
モーツァルトの作品のなかで、派手さはないものの極めて重要な位置を占めるジャンル…と言えば、それは弦楽四重奏曲でしょう。モーツァルトは、全部で23曲の弦楽四重奏曲を残し、作曲年代は1770年から1790年にわたっています。因みに、他の弦楽室内楽曲として…
ピアノの名手でもあったモーツァルトが手がけた、この楽器のための作品としてもっとも有名なものは、いうまでもなく協奏曲ですが、彼が残した18曲のソナタも忘れるわけにはいきません。前記事「ソナタ―作品と形式」でご紹介した通り、ピアノ・ソナタは、ピア…
クラシック音楽に関する紹介や解説において、「ソナタ」という言葉をよく目にするかと思います。もちろん、その意味内容を知らなくとも、クラシック音楽を愉しむことはできるわけですが、知ることでさらに視界が開け、視野が広がることもあるでしょうし、何…
アイネ・クライネ・ナハトムジーク(セレナード第13番 ト長調 K.525)は、モーツァルトの数多の作品の中でも最も知られた曲の一つでしょう。特に、第一および二楽章の主題旋律はあまりにも有名で、ほぼすべての人の耳に深く記憶されているのではないでしょうか…
セレナードは、各国語でserenade(英), Serenade(独), serenata(伊)と書き、セレナーデ、セレナータなどとも発音されます。もともと、セレナードは、夜、恋人の住む家の窓の下から、その愛しい人に捧げて歌われ、また演奏された音楽を指していましたが、18世…
「音楽家の三大悪妻」をご存じでしょうか?ヨーゼフ・ハイドンの妻マリア・アンナ・アロイジア・ケラー、モーツァルトの妻コンスタンツェ、そしてチャイコフスキーの妻アントニーナ・イヴァノヴナ・ミリューコヴァです。一方、より広い範囲の「世界三大悪妻…
モーツァルトは、その生涯で27曲のピアノ協奏曲を残しています。「モーツァルトの弦楽協奏曲」でも少し書いたように、モーツァルトは作曲家としてだけではなく、演奏家(ピアニスト)としての顔も持っており、特にウィーンに定住してからは、自ら舞台に立つ演…
モーツァルトは、その生涯のうち約10年、実に人生の4分の1以上を旅の空の下で過ごしました。そのため、36年という短い人生にもかかわらず、さまざまな都市を訪れています。そこで、モーツァルトと関係の深いヨーロッパ各地の都市を、彼が訪れた年代順に取り…
モーツァルト・セラピー(療法)という言葉をお聞きになったことはありませんか?これは、モーツァルトの音楽を聴くことにより、ストレスの解消や健康の増進、さらには病気の改善・治療までも実現しようとする療法(セラピー)のことで、ちょうど色によるカラー…
今回は協奏曲の2回目として、管楽のための協奏曲を取り上げます。モーツァルトの管楽協奏曲は、ホルン協奏曲(4)、フルート協奏曲(2)、オーボエ協奏曲(1)、ファゴット協奏曲(1)およびクラリネット協奏曲(1)が、完全な形で現存しています(※カッコ内の数字は曲…